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図書紹介            

科学と宗教と死     加賀 乙彦 集英社新書

 医者であり、作家でありかつカトリックの信仰者である著者が、これまでの人生の中でたどってきた「生と死」についての思索の軌跡を率直に語りつづります。

 恐ろしくも「鴻毛よりも軽い」死の受容を覚悟していた十代。犯罪心理学のテーマとして死刑囚の精神医学に取り組んで、また留学中の交通事故。また自身の死生観を変えた死刑囚との出会い。その交流のうちで『聖書』の意味の変化が生まれ、『風』のはたらきの下、夫婦そろっての受洗。

 79歳で最愛の妻の突然死に遭い、81歳で自身心停止を経験して、今はペースメーカーと共に生きている作者が、『歎異抄』と『放蕩息子』の共通点に気づく。またヒロシマ・ナガサキへの原爆投下を賛美し、市民殺戮のための日本各地への空襲を今なお正当化する教育を継続している合衆国の教育の現状、昨年の大震災と福島の原発事故の中で被災者を思う中で、自分が確かに死に近づいているとの自覚を持ちつつ、「原発と原子爆弾のなくなること」を祈る心が書き表されています。

 そのほか、科学の力と宗教の力の対比。阪神大震災で精神科医としてボランティアした65歳の時の「行政はつかめなかった現場のニーズ」。芭蕉と荘子の死(の意味?)。原発の報道は大本営発表の再来。祈ることの力の由来・・・

 すぐ近くにありまたいつか必ずくる厳かな死を視野に、どう生きるのかを考えるひとつの手がかりとなる1冊だと思います。加賀の小説からみるとかなり短い170頁余の新書本ではありますが、一読をお勧めします。                 

(飯塚)

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