「科学する」ということは、先入観無しに、合理的・体系的な研究をするということでしょう。その対象が「イエス」ということで、キリスト者が信仰の対象としてあるいは護教的にとりあげるか、逆に唯物論者や陰謀論者がフィクションとして扱うという形態がほとんどではないかと思います。ところで、この本は、南米ブラジルで大ベストセラーになったのですが、著者は「無神論者である精神科医」です。著書のテーマは
・イエスが架空の人物という可能性はあるのか。
・奇跡を起こさなくても、歴史を大きく変える存在となったのか。
・イエスはどのように弟子の心の窓を開き、その知性を育んだのか。
・イエスは試練にあるとき、思考と感情をどのようにコントロールしたのか。
・イエスの思想の特徴と意味は何なのか。 などです。
四つの福音書を材料に、精神医学と心理学の研究手法を使って、イエスの社会的な存在意義や、教育者としての卓越性。自身の死を通して何を目指したのか。などその論を「科学的に」展開していきます。神との関係や、秘蹟について触れているわけではないので、この本に「宗教」的なものを求めるとしたら、もしかして得るものは多くはないかもしれません。しかし『人間イエス』の実像に迫り、その生き方を通して、親しみと温かさそして「愛すること」を体現したイエスが人類に何を語りかけようとしたのか。いや語りかけているのかを知るための、大きなアプローチを提供してくれることと思います。
引き込まれるように読みきってしまいました。きっと読者の方々にはキリスト者にも、非キリスト者にも裏切ることのない血の通った人物イエスを感じさせてくれます。イエスの実在の確信と彼からのあなたへのメッセージを聞くことができます。
(飯塚)