イスラエルを理解するための好著2冊
教会でも開催しましたが、六甲学院でもアンネ・フランク展を行いました。その際、かつてあれほど悲惨な経験をしたイスラエルの人々が、今何故パレスチナの人々に「されたことをするようになったのか」を考えることになり、2冊の本を見つけました。それぞれ今年の3月と4月に出版された新しい本です。
「ユダヤ人の起源〜歴史はどのように創作されたのか」
著者 シュロモー・サンド
発行所 武田ランダムハウスジャパン
この本の原題は「ユダヤ人の発明」なのですが、それはユダヤ民族・人種という理解の仕方は19世紀のヨーロッパのナショナリズムの中で「発明」されたものでしかないと説明します。ユダヤ人とはユダヤ教徒であって、民族(エスニック)とは関係がないこと。ユダヤ人がローマ帝国、アフリカ、ロシアに至るまで増加したのはユダヤ教への改宗者が増えたことによると説明し、シオニストはその事実を無視しながら、民族の歴史としての「離散させられた民族のシオンへの復帰」という虚構を描いたとしています。著者はテルアビブ大学の歴史学教授でイスラエル人です。この本は出版後イスラエルでも欧米でもベストセラーとなり、イスラエル内部からのシオニズム批判として評判となったようです。
「トーラーの名において〜シオニズムに対するユダヤ教の抵抗の歴史 」
著者
ヤコブ・M・ラブキン著
発行所 平凡社
この本の著者もユダヤ人で、カナダのモントリオール大学教授で歴史学者です。本の副題にあるように、シオニズムはユダヤ教の正統の教えではなく、むしろユダヤ教の伝統の否定であることを強調しています。トーラーへの忠誠を軸にした(つまり真正な信仰心を土台にした)シオニズム批判の書となっています。パレスチナ人への残虐な行為はトーラーに照らして許されないものであることを指摘し、イスラエル政府の行為は信仰に反するものであると非難しています。外部からはわかりにくい複雑なからみあいを丁寧に解き明かしてくれる内容です。こちらも欧米でベストセラーになったとのことです。
教えと具体的な生き方との関係性と無関係性(その間にある緊張関係)を考えていくことは、私たちがこの日本に生活しながら、どのように状況を理解し行動していくかに対する示唆を与えてくれるものであると思いました。一読をオススメします。
吉村