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図書紹介       『神の発見』
               (五木寛之著 対話者:森 一弘  平凡社 1400円)

                                     

 私たちいわゆる団塊の世代にとって、1960〜70年代の「青春」を象徴する作家の一人であり、皆様よくご存知の直木賞作家・五木寛之は近年、当時の若者のバイブル的な作品とはまったく趣を異にした、文明批評や求道的ともいえる作品を数多く発表しています。ご紹介する本書は、著者がカトリック教会のスポークスマン、カルメル会の森一弘司教との対談を、短い感想を挟みながら9つの章にまとめたものです。仏教とキリスト教との対比を軸に、<神との出会い><慈悲と救済><日本人とキリスト教>など様々なテーマについて、とても自然で和やかな雰囲気のうちに対話が進んでゆきます。
 宗教をテーマにした対談ではありますが、決して小難しい哲学論争といったものではなく、私たちが日々ふっと抱くような疑問を、著者が単刀直入に投げかけ、それを森司教が率直にユーモアを交えながらさばいていく、またその逆に、著者の披瀝する仏教に関する豊富な知識に、森司教が感心される場面も時折見られる、といった気の張らない読み物になっています。
たとえば著者は対談の冒頭で、いきなりいわくつきの世界的大ベストセラー『ダ・ヴィンチ・コード』を話題として取り上げ、森司教は「好奇心を満たすミステリーとしては楽しんだが、作者の憶測は下衆のかんぐり」と斬って捨てます。また、<意外とネクラな聖書のメッセージ><他力は自力の母である><人間に謝る神のあたたかさ><天国にはユーモアがない?><隠れ念仏と隠れ切支丹>など、小見出しを幾つか拾ってみると、2人の対話が興味深い展開を示していることが、お分かりいただけると思います。
「まえがき」に当たる<ブッディストがキリストを訪ねる旅のはじめに>で、「私は勝手にブッディストだと思っている。ブッダと一般に呼ばれる釈迦に深く共感し、その思想と生き方に帰依してきた。しかし奇妙なことに、いつ読んでも感動するのは聖書である。(中略)『和魂洋才』というスローガンには、大きなごまかしがあるのではないか。洋才には本当は深いところで洋魂とでも呼ぶべき精神のありようがあって、それが才という技術やシステムを支えているはずである。・・・その根にあたる洋魂とはなにか。それがキリスト教的文化であることは、すでに誰もが知っていることだ。」と述べているように、仏教に関する造詣の深さ、宗教に対する真摯な姿勢、そして、現代文明に対する鋭い洞察眼を持って、著者がこの対談に臨んでいることは言を俟ちません。
                                               (石光)

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