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図書紹介    『かけがいのない人間』 

上田紀行 著


 

上田紀行著『かけがえのない人間』は、「人間は使い捨てだ」という考えが横行しつつある現代社会の中で、「人間は(自分は)かけがいのないものだ」という実感がいかに大切かを説いています。近年起こる社会現象や事件の背景を考えると、著者の指摘することの一つ一つが的を射ているように思われます。
 
 東京・秋葉原の通り魔事件では、7人もの尊い命が奪われました。決してあってはならない凄惨な事件でありながら、「人を殺したことは絶対に許すことはできないが、容疑者の携帯サイトの掲示板の内容については共感できる」という声が、派遣社員など彼と似た境遇にある若者中心に広がっている点で、これまでの事件とは異なっています。容疑者は5月下旬に匿名の相手からネット上で「自分に値段をつけたら?」と聞かれて「無価値です。ゴミ以下です」と答えていたそうです。6月下旬に工場から姿を消した後に、「人が足りないから来いと電話が来る。俺が必要だからじゃなくて、人が足りないから。誰が行くかよ。」とも書き込んでいたようです。
 
 確かに現代社会は、この容疑者の書き込みにもみられるように、自分が無価値であり誰とでも交換可能な存在であるという思いを、多くの人々に容易に抱かせる社会になってしまっています。『かけがいのない人間』の著者は、ダライ・ラマとの対談や自分の過去の体験を振り返り分ち合いながら、一人ひとりが「無価値」でも「交換可能な存在」でもなく、「かけがいのない存在である」ことを実感する大切さを主張しています。そのためには自分の人生を掘り起こし、一見ネガティブな出来事を含めて過去の体験を振り返る中で、その奥に潜む「意味」を見出すことが必要であると述べます。そしてよい世の中を創りだすために他人に頼ることなく、未来の希望に向って自ら行動することが「かけがいのない」人になる道であると主張します。さらに「かけがいのなさを取り戻す行動、それは一言でいえば、『愛されるよりも愛する人になる』ということです。」と語ります。
 
 著者は仏教に造詣の深い文化人類学者ですが、語る内容はキリスト教と様々な点で共鳴します。現代人がめざすべき方向性を示す、示唆に富む著作であると思います。

                                     

 (高橋)



 

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