「最後の授業」
ドーデ作
ポプラ社文庫
わずか十数ページの短編小説はプロシャ(ドイツ)の占領に伴い禁じられたフランス語の最後の授業を受けるアルザス・ロレーヌの村のひとりの少年の目を借りて描かれています。僕がこの短編と初めて出会ったのはかれこれ五十年も以前の中学の国語教科書の中で、尊敬していた柳井先生が「良く出来ている書き物だ」と書評されました。その後語学学習用の英語の本を手にいれてからは身近にあって度々読んできました。なぜかページを開ける度に涙を流しながら言葉を追っている自分がいました。
今度妻の児童書の書棚にあるのを見つけ半世紀ぶりに日本語で読み直しました。四十年教えた学校を明日去っていく先生は「みなさん、わたしが授業をするのは、きょうが最後です。ドイツ語いがいのことばを、おしえてはいけないことになりました。」と言って授業を始められます。「フランス語は世界じゅうでいちばん美しいことばであること。しっかりまもりつづけること。なぜなら民族がどれいになったとき、国語さえしっかりまもっていれば、じぶんたちの牢獄のかぎをにぎっているようなもの」だと思いの丈を語ります。
言葉の重大さにようやく目覚め始めた僕のバイブルに何時の間にかなっていたことに気づいたので
した。
(塚崎)