この本に出会う前に、NHKの「知るを楽しむ」という番組を観ました。その中で著者は、アフガニスタンで医者という仕事を越えて、地元の人たちと一緒に井戸を掘り、知恵を出し合って、灌漑のための水路を築き、砂漠化した土地を青々とした麦畑に変えていったことが紹介されていました。とても印象的でした。
そんな時、この本に出会いました。ここでの話は、その灌漑事業を始める10年も前のことです。
1979年にソ連がアフガニスタンに侵攻して、多くの難民が生まれました。メディアが断片的な偏った情報を流し、国連の団体やNGOが目立つ活動をしている中で、中村氏は、ハンセン病の診療から始め、さらに山村の無医地区に診療所を開設していきます。宗教も政治も関係なく、目の前の患者を助けながら、その間も地元の医療スタッフを育てていくなど、いつも現地を中心にした活動、本当の意味での援助を続けていきます。地元の人たちの信頼を得ることを優先的に考え、地に足をつけた活動を彼らと共に歩んでいく姿が書かれています。
中村氏は、長い活動の間、銃で守られているという経験はなく、ただ相手を信頼することが唯一の自分の身を守る術だと言っています。暴力で向かうと暴力しか返ってこない、武器を持たない勇気が必要だという言葉がとても力強く感じられます。
不安や暴力が支配する中で、私たちが本当に必要としているもの、また、貧しい中の豊かさ、弱い中にある強さを教えてくれた1冊でした。
(中村節子)