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図書紹介

「夜回り先生」

水谷 修著
サンクチュアリ出版刊


今の日本社会にあって、福音的な生き方とはどういうものか、どのような人を福音的と呼ぶのか、考えるためのヒントになる本です。
著者の水谷先生は横浜の夜間高校に務める教師です。上智大学の哲学科を卒業していますが、キリスト教信者ではないようです。夜間の授業が終わり深夜になると、夜回り(夜間パトロール)をして、暴走族やシンナーや麻薬、窃盗などの非行に走る少年たちに話しかけ、親しくなりながら、大人たちの社会から排除されている彼らが、非行から抜け出すために力を尽くしています。それまでの過ちについては「いいんだよ」とありのまま受け入れ、彼らの心の中の寂しさや苦しさに共感し仲間になりながら、現状から新しい出発の道筋を探し出して行く粘り強い姿勢がこの先生にはあります。

本の中には「落とし前」という一章があります。非行に走っていたある少年を説得して夜間高校に通わせるのですが、長くは続かず暴力団に入ってしまいます。水谷先生は足を洗うことを決意させ、暴力団事務所に本人と2人で行きます。一旦は、今後その暴力団の縄張りに足を踏み入れないという条件のもとに、暴力団からその少年を引き離すことに成功します。ところが、1ヶ月後に少年はその縄張りに入ってしまい、組事務所に拘束されます。学校でその知らせを受けた先生はすぐに組事務所に向かいます。少年は両脇を何人もの組員に囲われて、真っ青な顔で震えています。そこで、組長が示した、約束を破った「落とし前」は水谷先生の利き腕の指1本でした。

その後少年は高校に戻り、自分の店を持つことを夢見て、都内の中華料理店でまじめに働いているとのことです。現在の彼をそう紹介した後にこの章は、「それを思えば指一本、なかなか痛かったが、安い買い物だった。」という言葉で終わっています。

水谷先生は警察からも「日本で最も死に近い教師」と呼ばれるほど、命の危険な場面に身をさらしながら、少年たちのために尽くしています。自分の心や体が擦り切れ傷ついてまで、夜回りで出会う少年たちのことを何よりも大切にする生き方のうちに、私たち信者が思い込みがちな生半可で優しげな"福音"を超えた――キリストの姿につながる福音的な生き方が示されているように思います。
     

(高橋純雄)





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