「悪魔の手紙」
C. S. ルイス
新教出版社
今の日本では制度としてほとんど見られない大学の教養課程で、原本を英語のテキストとして用いた。インターネットがなかった時代とはいえ、迂闊にも訳本があるとは露知らず文字通り苦心惨憺した思い出がある。
「悪魔に関して人間は2つの誤謬におちいる可能性がある。そのひとつは悪魔の存在を信じないことであり、他はこれを信じて過度の、そして不健全な興味を覚えることである。」という書き出しから、一気に悪魔の世界に引き込まれていく。日常経験するありきたりの事件を通して、普通の青年の心の隙をついて悪魔は巧みに地獄政庁に導く努力をする。
悪魔が利用する武器は以下のようなものである。不明瞭な論証、日常性への埋没、現実(普遍的ではない)の教会の風景、党派的教会、主義に変質した宗教、表面的な祈り、肉体的苦痛、精神の波動状態、暴食、官能の誘惑、浅薄な友人の選択、見せかけの価値しかない読書、恋愛や結婚観また謙遜の徳の誤った認識、本質とは異なるキリスト教色の流行への興味、祈りの効果への不信などである。
ルイスは、心理学者の洞察力、哲学者の緻密な論証と英国人特有のユーモアで、悪魔の世界を白日の下に示しています。いかがでしょうか。私は日々の生活で、今一歩で敵の陣営に取り込まれそうになる時があります。敵の陣営は、旧来の武器からあらゆる新兵器までを駆使して、キリスト教を打倒しようとしています。それに対して、我が陣営の方は軍服の袖に手を通すことすらしていないように思うのは単なる危惧に過ぎないでしょうか。
(志垣)
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