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図書紹介

「武士道」


新渡戸稲造著 須知徳平訳
講談社インターナショナル


 

この程御逝去されたヨハネ・パウロ2世は、「多宗教、多文化の共存,共生」を訴えられたことは御案内のとおりであります。この共存、共生を図って行くためには、われわれ自身がまずもってその拠って立つところをしっかり確立させるということが不可欠の要件になるのではないでしょうか。しかしながら、最近の日本の政治、経済などの様々な事象の前で、われわれの国日本が、いかにその生くべき姿を自覚し、しっかりと自らの価値観というものを固めなければならないかを痛切に感じております。こうしたなかで、今回紹介する本は、まさに時宜に適ったものではないかと推薦するしだいであります。

かつての日本人がしっかりした価値観をもっていたことが、この新渡戸稲造著(1862―1933)「武士道」(原文は英語で、この本は英語邦訳の対訳本)によって明らかになります。国際人としてのキリスト者新渡戸稲造が「戦争なき状態が平和にあらず」と主張するその論述の深さに、また日本人のあるいは日本人の感性、日本文化の微妙な側面を絶妙な英語表現で陳述していることに目を見張るものがあります。学生諸君には英語の勉強も兼ねて、これからの日本人は,自らの主張、意見をもつこと、そしてそれを発言できる真の国際人にならなければならないとの主張は示唆に富むものであること請け合いです。本の詳細は、読んでいただくとして、ここではその序文にある一節を紹介したいと思います。新渡戸稲造がベルギーの法政学の教授と次のような会話を交しています。

 「それでは、あなたの説によると、日本の学校においては、宗教教育はなされていないということなんですか」と聞かれた新渡戸が、「ありません」と答えると、教授は驚いたように突然歩みを止めて「宗教がない。それでどうして、道徳教育を授けることが出来るのですか」といわれたことは、忘れられないと述懐し、新渡戸はこう述べる。「自分が少年時代に学んだ道徳の教えは、学校で教えられたものではなかったからである。私自身の中の善悪や、正不正の観念を形成しているのは一体何なのか。そのいろんな要素を分析してみて、はじめてこれらの観念を私自身の中に吹き込んだものは、実に武士道であったことをようやくに見出したのである」と。

そして本文の構成は、@義 A勇気、敢為堅忍(カンイケンニン)の精神 B仁・惻隠(ソクイン)の心 C礼儀 D真実および誠実 E名誉 F忠義 G克己 H婦人の教育と地位 等など について欧米との比較検証を交えて実に深い論述を展開している。
みなさまに是非読んでいただきたく思います。

(船井孝祐)



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